(雑誌 「治療」Vol.89,3月増刊号 p1230〜南山堂)

我々がキノコの抗がん研究を系統的にはじめたのは、かなり以前であるが、最近では欧米諸国でも我々のこれまでのキノコの研究を注目している。
我々は1960年代の後半から長い間、主として国立がんセンターでキノコの抗がん作用について研究してきた1〜3)。
まだBRM(biological Response Modifier)という言葉もない時代であったが、中原和郎先生(元国立がんセンター総長)のご指導の許に、キノコ類から免疫機能を亢進してがんをやっつける物質を探索する研究をはじめたのである。
それから国際的にもキノコの機能性について関心が高まっている。
中原先生は長い間米国のロックフェラー研究所で癌研究に携わり、とりわけ癌免疫に関心をもっておられた。その後米国ではこの癌免疫研究の流れはOld博士のTNF(Tumor Necrosis Factor、腫瘍壊死因子)へと発展した。
当時先生は、日本でも癌の化学療法の分野に免疫的な概念を導入されようとしていたときであり、先生のいわゆる「宿主仲介性」抗がん活性の重要性を唱えられておられた。
実験腫瘍としてSarcoma 180固形癌を用いる抗がん試験法は、今や一般的なものになっているが、わが国ではいろいろな変法が報告されている。しかしそれらは一般にあまい結果が出るようで、我々が国立がんセンターでやってきた方法で追試すると効かないことが多かった。
そしてがんに効くキノコと効かないキノコははっきり区別することができたのである。
最初に我々は、古くからわが国でがんに効くという言い伝えがあった「サルノコシカケ科」などの硬いキノコについて、抗がん活性を検索したが、必ずしも満足のいく結果は得られなかった。そのなかでもメシマコブが比較的活性が強かったのだが、投与量を少し落とすと、活性は著しく弱くなってしまう (表1)。
メシマコブは韓国では保健薬になっているが、このキノコは黄色の色素を産生するのが特徴であり、別名桑黄ともいわれる所以である。
したがって臨床に応用する場合には、この色素の毒性に十分配慮する必要があり、我々はその有用性には期待できないというのが結論であったが、現在もその結論には変わりがない。
このように硬いキノコにはそれほど抗がん活性が強いものはなく、期待したほどの結果が得られなかった。
しかしわが国でポピュラーな食用キノコを取り上げ、中原先生の所謂「宿主仲介性」の抗がん試験にかけてみると、強い活性を示した。その結果は表1に示したような結果であり、広くいろいろなところに引用されている。
このうちで先ずシイタケを選んで、それから抗がん多糖体をはじめて分離した。その化学構造はβ−(1−3)−グルカンの基本構造を持っており、後にレンチナンと名づけられ注射薬として日本で狭い範囲で臨床に応用された。
スエヒロタケ菌糸体から分離されたグルカンもβ−(1−3)−グルカンの一つであり保健薬になっているが、これらの多糖体は、エノキタケ、ヒラタケ、マイタケから分離された抗がん多糖体と同じくβ−(1−3)−グルカンの骨格をもっており、その6位の側鎖は若干異なるが、活性は変わらない4〜6)。
また、カワラタケの菌糸体から分離されたPS-K(クレスチン)は、β−(1−4)−グルカンを主とした多糖体にたんぱく質が混合した粗物質であり、経口剤として保健薬になったが、期待される減少する効果は認められなかった。
これらのキノコ由来の保健薬はわが国に限られており、抗がん薬として国際的な評価は得られなかった。
これまで述べてきた抗がん作用はi.p(.腹腔内投与)による結果であるが、β−(1−3)−グルカンのような多糖体は腹腔内投与では強い抗がん活性があっても、p.o.(経口投与)では効かないのが一般である。経口投与ではどうかということが問題になると、より定量的に免疫賦活活性を測定する方法が必要であったが、その問題で凍結外科療法との併用による実験モデルが役立った5)。
一方エノキタケ子実体の水抽出物は経口でVX-2というウサギの腫瘍に効いた。またそれを凍結外科療法と併用すると、腹腔内投与でも経口投与でも併用効果が認められた。そこでその抽出物から分離精製されたβ−(1−3)−グルカン(EA3)を検討すると、腹腔内投与では効くが、経口投与では効かなかった。
ところが腹腔内投与ではあまり効かなかった低分子のタンパク質結合多糖体EA6は経口投与で強い併用効果を示した。そこで改めて経口投与でsarcoma 180の固形癌に対して抗がん試験をしたところ、EA6は効くが、EA3は効かなかった。
このようにしてキノコ類では、経口で効くものは寧ろ単純な多糖体ではないということがわかってきた。
しかし現在ある種のサプリメントでは、ただ単にグルカンの量が多いと謳って販売しているものもある。
当時我々は経口によってsarcoma 180のような異系腫瘍だけでなく、同系腫瘍にも効くものを求めてスクリーニングしていたが、それと凍結外科療法の結果が一致した。即ちエノキタケ由来のEA6は、同系腫瘍であるルイス肺癌やB-16メラノーマに経口投与で有効であり、またルイス肺癌を用いた実験で、EA6が肺転移を予防することも証明した。次にEA6 と外科手術との併用療法についても、EA6の経口投与による併用効果を証明し、それが術前に投与するよりも、術後に投与した方が高い活性を示すことを証明した。それはEA6が外科手術をした後でも再発予防に有効であることを示している。
さらにエノキタケの培養菌糸体からEA6の同族体で単一物質であるプロフラミン(Proflamin, PRF)を分離した6)。PRFもまたルイス肺癌、B-16メラノーマなどの同系腫瘍に経口投与で有効であった。
これらの物質は免疫賦活または調節作用によって抗がん活性を示し、その作用機序は、マクロファージ、CD4(+)細胞(ヘルパーT細胞)を活性化して、NK細胞も活性化するなど免疫担当細胞の機能が亢進することが動物実験で証明されている。またそのような免疫担当細胞の機能亢進は、後述するEEMの臨床実験でも確認されている1〜3)。
| きのこ名 | 完 全 退縮率 |
平均腫瘍 重量(g) |
増殖阻止率 (%) |
|
|---|---|---|---|---|
| シイタケ | 6/10 | 2.2 | 80.7 | |
| Control | 0/10 | 11.4 | ||
| エノキタケ | 3/10 | 2.1 | 81.1 | |
| Control | 0/10 | 11.4 | ||
| ヒラタケ | 5/10 | 2.3 | 75.3 | |
| Control | 0/10 | 9.4 | ||
| カンタケ | 0/8 | 2.3 | 72.3 | |
| Control | 0/9 | 8.3 | ||
| ナメコ | 3/10 | 1.4 | 86.5 | |
| Control | 0/10 | 10.4 | ||
| マツタケ | 5/9 | 0.76 | 91.8 | |
| Control | 0/9 | 9.3 | ||
| キクラゲ | 0/9 | 4.9 | 42.6 | |
| Control | 0/9 | 8.3 | ||
| ツクリタケ (アガリクス類) |
12.7 | |||
| ブナシメジ | 100mg/kg×10days | 6/6 | 0.0 | 100 |
| 30mg/kg×10days | 6/6 | 0.0 | 100 | |
| 10mg/kg×10days | 3/6 | 2.7 | 71 | |
| Control | 0/12 | 9.4 | ||
| メシマコブ | 200mg/kg×10days | 7/8 | 0.2 | 96.7 |
| Control | 0/8 | 6.8 | ||
| メシマコブ | 150mg/kg×10days | 2/10 | 4.7 | 49.7 |
| Control | 0/10 | 9.1 | ||