生体に備わった力を活かす
「CTL療法」を中心に、統合療法の重要性を広めていきたい。
中尾:先生は免疫について長年研究され、体にもともと備わっている免疫力の重要性を発信なさっていますよね。私も漢方を通じて、免疫力の大切さをより多くの方々に広めていきたいと考えています。本日は、色々なお話を伺いたいです。よろしくお願いします。
藤本:よろしくお願いします。
中尾:それではまず、先生が免疫の研究を始められたきっかけを教えていただけますか?
藤本:はい。実は私は外科医になって3ヵ月ほど経った頃から、悪い部分を切除するだけの医療に疑問を抱きはじめたのです。「切る外科医」ではなく 「つくる外科医」、健康のための何かを生みだせる外科医を目指したいと思いました。
中尾:そうなんですね。悪い部分ばかりを診るのではなく、体全体を診るということが非常に大切ですよね。悪い部分を切除するだけでは、根本的な健康につながらない可能性があります。
藤本:そうなんです。ただ、そこからすぐに免疫の研究を始めたわけではありません。まず関心をもったのは、人工臓器です。
中尾:まさに「つくる外科医」ということですね。
藤本:そうです。人工臓器の分野をもっと進歩させたいと考え、臓器移植に特化したグループをつくってもらいました。そこで研究を重ねるうちに、免疫力の重要性に気づいたのです。移植の免疫学ですね。
中尾:なるほど。移植の研究から、体の免疫力に着目なさったのですね。しかし、免疫について外科で研究することは難しいですよね?
藤本:はい。外科で研究を続けることは難しかったのですが、免疫についての研究にどうしても取り組みたかったので、外科を辞めて大学院に移り、研究を始めました。
中尾:思いきって辞められたのですね。大学院での研究は険しい道のりだったのではないですか?
藤本:たしかにあまり理解されず、大変なことはありました。だからこそ、絶対にやりきろう、ひとりでも地道に続けようと思いましたね。そして3年間かけて、研究内容を論文にまとめ、発表しました。
中尾:先生の強い想いが伝わります。そしてその論文発表をきっかけに、また新たな道が見えてくるわけですね。
藤本:論文を発表した後、カナダの大学を紹介してもらいました。そして、移植の免疫学の次は、がんの免疫について研究してみないかと提案されたのです。
同じリンパ球ですが、
「正の免疫」と「負の免疫」があると分かりました。
中尾:移植の免疫研究の次に、がんの免疫研究をすすめられたのですね。
藤本:これからはがんの免疫研究が必要になると言われました。驚きもありましたが、がん治療の道が開けるのならお役に立ちたいと思い、研究に取り組むことを決意しました。
中尾:先生の研究者としての姿勢、大変刺激を受けます。そして、その研究の中で「サプレッサーT細胞」を発見なさったのですね。
藤本:そうです。研究を進めるうちに、同じリンパ球でありながら、がんを攻撃する「正の免疫」と、がんを育ててしまう「負の免疫」が存在することが分かりました。その「負の免疫」というのが、「サプレッサーT細胞」です。
中尾:同じリンパ球でも、がんに対する働き方が違うと。その発見は、免疫療法を大きく進歩させるものですね。
藤本:はい、この仕組みを活かした免疫療法を確立させたいと強く思いました。「サプレッサーT細胞」の影響を受けにくい環境で、がんを攻撃する特異性のあるリンパ球「キラーT細胞」のみを活性化させる療法です。
中尾:「キラーT細胞」、つまり「CTL」ですね。もともと体に備わっている免疫力を活性化させる、まさに健康を生みだす医療です。
がんだけを攻撃する「CTL」を増やします。
生体の免疫力を活かすことが大切です。
中尾:先生が世界で初めて開発された「CTL療法」について、詳しくご説明いただけますか?
藤本:はい。がん患者の方の「キラーT細胞」を採取し、「サプレッサーT細胞」の影響を受けにくい環境、つまり体の外で刺激を与えて活性化させます。そしてまた体内に戻し、がん細胞を攻撃させるのです。
中尾:がん細胞だけを攻撃するというのも、大きなポイントですね。正常な細胞まで攻撃してしまっては、免疫力がまた低下してしまいます。
藤本:そうです。とても大きなポイントです。もともと体に備わっている免疫力を活かすことが重要なのです。「CTL療法」の副作用として、38度程度の発熱が挙げられますが、抗がん剤や放射線のように免疫力を破壊してしまうことはありません。
中尾:はい、免疫力を破壊してしまっては、根本的な健康にはつながりませんね。
藤本:そのとおりです。中尾さんが開発なさっている漢方も、その点を重視していますね。体にとって本当に良いものをつくろう、社会に発信しようという熱意を感じます。
中尾:ありがとうございます。私も、悪い部分だけを診るのではなく、相談に来られた目の前の方のお話をじっくり伺って、その方に合った処方を行えるように心がけています。
藤本:そうですね。体全体のことを考え、できる限り自分自身に備わっている力だけで改善していくことが理想的です。
中尾:私も本当にそう思います。「CTL療法」をはじめ、免疫力に着目したがん治療の普及が必要ですね。
藤本:はい、これからもお互いに努力を重ねて取り組んでいきましょう。よろしくお願いします。
中尾:よろしくお願いします。本日は、ありがとうございました。
がん患者さんへのメッセージ
がん治療の選択肢は色々とあります。できる限り、生体に備わった力だけで治していくことが理想的です。また、医師との向き合い方、接し方で悩まれている方も多くいらっしゃるのではないでしょうか。聞きにくいこともあるかもしれませんが、真摯な姿勢できちんと説明を行える医師を選びましょう。がんを攻撃するための免疫力を高める特異的免疫療法も選択肢のひとつとして取り入れていただき、がん改善のお役に立てましたら幸いです。
高知医科大学名誉教授
藤本 重義
経歴
昭和38年千葉大学医学部卒
学会・認定医
高知大学名誉教授(免疫学)
アメリカ免疫学会、ニューヨーク科学アカデミー会員
日本免疫学会評議員
日本癌学会、日本リンパ学会評議員
日本癌病態治療研究会名誉会員
日本癌免疫外科研究会功労会員